【登場人物】
生地 こね子:パン屋「boulangerie KONEKO」店主。不器用で圧倒的な行動力を持つ闘うヒロイン。理屈より物理で解決する現場主義。
千田 千冬:ネイル作家「サウザンサウザン」オーナー。超合理主義者で非効率を嫌うが、想定外のカオスに弱い。
【場面設定】
千冬のネイルサロン「サウザンサウザン」。モノトーンで統一された無駄のない空間。こね子が、紙袋を持ってずかずか入ってくる。

生地こね子:千冬ちゃん、いる? あ、いた。
千田千冬:あ、こね子さん。いますよ。
こね子:いい?(と言いながら、もう入っている。紙袋からドイツパンを取り出す)ちょっと感想を聞かせてよ。
(千冬、無表情でパンを見つめる)
千冬:「かんそうをきかせて」というのは、「かんそうをきかせて」ということですね。
こね子:え、ちゃんと伝わったかわからないんだけど。そう、「感想」。
千冬:「かんそうをきかせて」と言ったのは、こね子さんですよ。私に言われても困ります。
こね子:え、なんでだろう、少しイラっとする! 聞かせてくんないってこと、感想。なんか、千冬ちゃん、冷たくない?
千冬:私は、通常運行です。で、乾燥ではなく、冷房の話ですか? パンが湿気ないようにという話が、焼き立てのうちに食べさせたいって話に変わりました?
こね子:え、私がエアコンの話をしたみたいになってるけど。
千冬:落ち着いて、こね子さん。こね子さんが私にパンを持って来てくれて、この部屋はちょっとじめっとしてるから、湿度を下げろと、もともとそういうお話だと思ったんですけど。違うんですか?
こね子:違うわよ! 「感想」よ、どう思うかっていう「感想」! 美味しいか、不味いか、塩気が足りないか! そういう、食べたときの人間の、あったかい気持ちのことよ!
千冬:最初からそう言ってください。
こね子:(泣き顔)言ってる。
千冬:ここはネイルの硬化、つまりこね子さんの言う「感想」とは違う、「乾燥」を扱うサロンですから。
こね子:パン屋だって、「乾燥」には厳しいわよ。あ、千冬ちゃんの言ってるほうの「乾燥」ね。これも、ちゃんと伝わってるかわからないけど! 千冬ちゃん、あんた、そんなに頭固かったっけ? このドイツパンより固いんじゃないの!?
千冬:頭の硬度は関係ありません! (こね子のパンをかじる)感想ですね。こね子さんの言う、「感想」。硬すぎます。歯のエナメル質が削られそう。咀嚼にかかる時間対効果が悪すぎます!
こね子:時間対効果!? パンを味わうのにタイパなんて言ってたら、心がカサカサになっちゃうわよ!
千冬:(小瓶を並べるスピードがさらに速くなる)カサカサ……それは、私の言う「乾燥」ですね。やっぱり、最後は「乾燥」の話に収束したじゃないですか。私の推測が当たりました。
こね子:勝手に「最後」なんて決めさせないわよ。で、味はどうなの? ドイツパンはね、噛み締め噛み締め味わうのよ。
千冬:美味しいです。
こね子:(機嫌がよくなる)でしょう? ああ、よかった。また持って来てあげるから、感想を聞かせてね。
千冬:とりあえず、帰ってもらっていいですか? 次のお客様が見える時間なので。
こね子:ふふ、照れなくていいのに。
(幕)
作・千早亭小倉




