【登場人物】
はるひこ:10歳の長男。絶対的観察者。
なつひこ:5歳の次男。いつもらっらと言っている。
まさよし:父親。弁護士。すぐ小言を言う。
みちこ:母親。専業主婦。ソファと一体化している。
【場面設定】
昭和47年。成城学園前駅近くの中華レストランの店先。はるひこ、みちこ、なつひこが店に入らず待っている。
みちこ:はる、さっき見せてくれた国語の作文……あんた、ずいぶん達筆なのね。
はるひこ:タッピツ? あ、知ってる、それ。(うれしそうに、両足をよじり合わせてくねくねする)
(店から、まさよしが出てくる。すでに頭から軽く湯気が出ている)
まさよし:帰るぞ。
はるひこ:ええ? 回るテーブルは?
みちこ:どうしたんです、せっかく来たのに。
まさよし:順番待ちの紙に書かせておいて、私の字が読めないとは、どういうことだ。
みちこ:(苦笑しつつ)あなたの字、達筆だから。
(はるひこ、何かを察する)
はるひこ:え、もしかして、僕が達筆って、ほめてなかったの?
まさよし:は? お前が達筆のわけないだろう?
みちこ:嫌味よ。
はるひこ:イヤミ?
まさよし:なんだ、おんぱりそは嫌味も知らないのか?
はるひこ:(ひらめく)あ、おそ松くんに出てくる、ざんす? 僕の字は、おフランスなの?
みちこ:(ため息)そのイヤミだけど、そのイヤミじゃないわよ。
なつひこ:(耳元で親指と中指をこすり合わせてにやにやしてる)らっら、らっら。
はるひこ:ねえ、お昼どうするの? なっちゃんがおなかすいたって。
みちこ:帰って、チャーハンでいいでしょう?
はるひこ:わーい。おかあさんのチャーハンおいしいもんね。ね、なっちゃん。
まさよし:(不満げであり、自慢げでもある)私が本場中国で食べた本物のチャーハンに比べたら、ふん。
はるひこ:おかあさん、いまのはどっちのイヤミ? おフランスのほう?
みちこ:(ため息まじりに)両方よ。
まさよし:は? やかましい!
なつひこ:らっら、らっら。
はるひこ:なっちゃん、今日はおフランスのチャーハンだって。
(店の人が出てくる。「●▼✕◎様、どうぞ」)
まさよし:違う、全然違う。読めないのか。
みちこ:読めないわよ。
(幕)
作・千早亭小倉



