箱庭コント242「また、プリン!」

【登場人物】
おはぎはん(宏原こはぎ):面白そうなことには即行動の、猪突猛進型ジャーナリスト魂を持つライター。姉のプリンを勝手に食べた。
おはなはん(宏原こはな):おはぎはんの姉。FMここあんのミキサー。努力家で前向きな、常識人。冷蔵庫に入れておいたプリンを食べられて、ちょっと怒っている。
佐野 健:FMここあんのエンジニア。二人のやり取りに巻き込まれる、音にこだわる職人気質。

【場面設定】
平日の昼下がり。FMここあんのスタジオの隅にある休憩スペース。小さなテーブルと数脚の椅子が置かれている。おはなはんが腕を組み、目の前に立つ妹のおはぎはんを詰問している。

おはなはん:……で? 何か言うことは? ここに、「宏原」ってマジックで書いておいた、私のプリン。忽然と中身が消えて、容器だけが残されているんだけど。

(おはなはんが、テーブルに置かれた空のプリン容器を人差し指でトントン叩いている)

おはぎはん:ああ、それな。食べてしもうた。徒然士先生の取材で、プリン、プリンってさんざん聞かされて、つい。

おはなはん:食べてしもうたって、徒然士先生は関係ないでしょう! あのプリンはね、昨日頑張った自分へのご褒美にって、わざわざ成城が丘のケーキ屋さんで……。

おはぎはん:(おはなはんの言葉を遮り、真剣な顔で)お姉ちゃん、これは単なる食い意地とは違う。ジャーナリズムや。

おはなはん:はあ? ジャーナリズム? プリンを食べることが? 徒然士はどこいったのよ。

おはぎはん:徒然士のことは、もうええ。プリンはジャーナリズムなんや。このプリンの製造元、そして流通経路、さらにはこの村における「甘味」の消費動態を調査する必要があったんや。これは、ここあん村の経済を読み解く上で、避けては通れない取材やった。

おはなはん:(こめかみを押さえ)……もう、いい。食べたことは、もういいわ。でも、せめて……せめて、カラメルソースを残すのだけはやめてくれない? 器の底に、悲しそうに茶色い涙を浮かべてるみたいじゃないの。

おはぎはん:そこや! それこそが、今回の取材で最大の発見やったんや!

おはなはん:発見?

おはぎはん:(急に理知的な標準語になり)お姉さんは、プリンの本体はカスタード部分だと誤解しています。しかし、違うのです。あの苦くて甘いカラメルこそが、プリンという存在の根幹を成す、いわば「哲学」なのです、ね!

おはなはん:ですね、って、ちょっと待ちなさい。あんた、いつから標準語になったの?

おはぎはん:(真顔で)私の関西魂は……カスタード部分に吸収され、消滅しました。

おはなはん:何を今さら! プリンに自分のアイデンティティまで押し付けないで!

(そこへ、ヘッドフォンを首にかけた佐野健が、少し困った顔でやってくる)

佐野 健:おはなはん、さあ。そろそろ、次の番組の準備、始めてもらっていい? あれ? おはぎはんもいたんだ。なんか、深刻そうな顔してるけど、どうしたの?

おはなはん:ああ、サノケンさん。気にしないでください。今、妹が、プリンのカラメルソースの存在意義について、熱く語ってただけなんで。

佐野 健:カラメルの……? ああ、分かります。あれは、プリン全体の音響でいうところの、低周波ベースですよね。カスタードの高音域ハイを支える、重厚な。

おはぎはん:(佐野に標準語で力説する)そう! そうなのです、佐野さん! この人は、その「魂」の部分を無視しろと言うのです!

おはなはん:言ってない! ただ、食べるなら全部きれいに食べなさいって……!

(再び口論を始めようとする姉妹を見て、佐野はそっと後ずさる)

佐野 健:じゃ、僕はミキサーの調整があるので、これで。

(佐野が足早に去っていく。残された二人の間に、気まずい沈黙が流れる)

おはぎはん:(何かを思い出したように)なあ、お姉ちゃん。プリンのことやけどな……。

おはなはん:(関西弁に戻った妹に、怪訝そうに)……なに? 謝る気になった?

おはぎはん:プチ情報やけど、プリンはプディングやけど、プディングはプリンではないんやで。これは真理や。

おはなはん:……知らんわ。

(おはなはんは、心底どうでもよさそうに吐き捨て、今度こそスタジオの準備に向かう。おはぎはんは、一人、空のプリン容器を手に、満足げに頷いている)

作・千早亭小倉


おはなはん|箱庭ここあん村の住人紹介
氏名:おはなはん(本名 宏原 こはな)年齢・性別:28歳・女性肩書:FMここあん ミキサーFMここあんの番組を裏から支える、冷静沈着なミキサーです。暴走しがちな妹の「おはぎはん」や、生放送中に予測不能な行動をとるDJのミサンガに日々頭を抱え…
おはぎはん|箱庭ここあん村の住人紹介
氏名:おはぎはん(本名は「宏原こはぎ」)年齢・性別: 22歳・女性肩書: ライター(現場主義のジャーナリスト)、劇団「かもかも」女優「こんなん、面白くないやん!」 と、相手の懐に土足で踏み込む直線的な関西弁が特徴の若手ライター。赤毛のベリー…
佐野 健|箱庭ここあん村の住人紹介
氏名:佐野 健(さの けん)年齢・性別:30歳・男性肩書:「FMここあん」エンジニア「FMここあん」の放送インフラを守る完璧主義のエンジニア。過去の大災害対応時に負った重度の耳鳴りに苛まれており、放送事故である「無音デッドエア」を極端に恐れ…
FMここあん|箱庭ここあん村の中心スポット
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[コント台本・掌編 約600本]

主な舞台は、椎名町三丁目から広がる箱庭「ここあん村」。箱庭コント作家・千早亭小倉の手による、どこか懐かしい日常劇やクスッと笑えるコメディ、沁みる掌編を絶賛公開中です。これからも「読むシットコム」の世界を追究していきます。
*ここあん村および本サイトに掲載している小説類の設定はフィクションです。 *The articles on this site were written by a human, peppered with AI. *無断転載禁止 Copyright © 2025 千早亭小倉|箱庭コントを紡ぐ 話紡庵レーベル All Rights Reserved.

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