箱庭コント249「昼休みの墓碑銘」

【登場人物】
矢尾リリカ:ここあん高校に通う、最強ヒロイン。容姿端麗だがシニカルな知性の持ち主。安部公房の文庫本を読んでいる。
カリソメ君:主人公なりそこね。ごく普通の男子生徒。クラスの文化祭実行委員。アンケート用紙を持っている。
ケニー: 地味な文学少年。物静かな読書家。ヴォネガットのペーパーバックを読んでいる。

【場面設定】
ここあん高校、昼休みの図書室。窓際の席で、リリカとケニーがそれぞれ静かに読書をしている。空気は穏やか。

(少し慌てた足音。カリソメ君がアンケート用紙とボールペンを握りしめ、リリカとケニーのテーブルにやってくる)

カリソメ君:あ、いた、いた! リリカさん、あと、君は(名前を思い出そうとしている)、そうだケン君。ちょっといい? 文化祭のクラス企画、アンケート取ってるんだけど。

(リリカ、読んでいた文庫本からゆっくりと顔を上げる。名前を間違えられたケニーは本から目を離さず、会釈だけする)

リリカ:文化祭。ああ、学校公認の集団ヒステリーのことね。

カリソメ君:ヒ、ヒステリー? (苦笑いしつつ)いや、まあ、みんなで盛り上がるやつ。今、候補が「映えるチュロス」か「アサイーボウル屋」のどちらかでまとまりそうでさ。リリカさんとケン君はどっちがいい? クラスの行事だし、民主的に決めたいんだ。

リリカ:(無表情でカリソメ君を見つめ)なるほど。私たちは『1984年』のプロールよろしく、甘い配給で思考停止させられる運命なのね。

カリソメ君:え? センキュウヒャク? いま何年だと思ってるの?(アンケート用紙とリリカの顔を交互に見る)

ケニー:(本を読んだまま、ボソッと)リリカさんは、その二択がすでに「ビッグ・ブラザー」による支配なんじゃないかって言ってるんだよ。たぶん。

カリソメ君:ビッグブラ……? 長男とか次男の話? チュロスとアサイーだよ、兄弟じゃないよ。

リリカ:カリソメ。あなたは、その「映える」とかいう価値観が、どこから来たか考えたことがある? それは本当にあなたの内側から湧いてきた欲望なの?

カリソメ君:ヨクボウ?(少し照れた顔になり)……っていうか(スマホを取り出し、何かを見せようとして)だって、みんな好きじゃん? サクサクのやつとか。行列できるし。(スマホ画面をリリカに向けて見せる)ほら、流行りのカフェ。

リリカ:行列。素晴らしいわね。「みんな」が並ぶから、私も並ぶ。家畜の列と同じ論理よ。思考の放棄を「流行」と呼ぶなら、私は喜んで時代遅れになるわ。

カリソメ君:(少しムッとして)なんだよ、家畜の列って。牛だって、馬だって、自分から行列なんてしないだろう?

ケニー:(少しだけ感心した顔で、カリソメ君を見る)リリカさんのは、比喩であり、時に残酷な事実でもある。

カリソメ君:(ケニーには応えず)じゃあ、リリカさんは何がいいんだよ!

リリカ:(少し考え)そうね。「『砂の女』体験ブース」とか。

カリソメ君:すなのおんなのスープ?(怪訝な顔)

ケニー:(小さく吹き出し)それなら僕は、「『タイタンの妖女』に出てくるハーモニウムの模型展示」とかがいいな。誰も意味わかんないだろうけど。

リリカ:(ケニーを見て、わずかに口角を上げ)悪くないわね、ケニー。その無意味さこそが、文化の本質かもしれない。

カリソメ君:(二人のやり取りをポカンと見て)あの、ごめん。それって、お化け屋敷みたいなこと? せっかく、まとまりそうなのに。

リリカ:(小さく、しかし鋭いため息をつき)カリソメ。(アンケート用紙を指さし)そこに「その他」の欄はある?

カリソメ君:あ、うん。あるけど。

リリカ:「『安部公房の描く“壁”』のコスプレ」って書いておいて。

カリソメ君:コスプレはいいけど、壁って!?(ペンを持ったまま固まる)

リリカ:ええ。ただの白い壁じゃないわよ。実存的な壁。

ケニー:僕は「『スローターハウス5』の墓碑銘」がいいな。

カリソメ君:(リリカに加え、ケニーの訳の分からない注文に半泣きになりながら)もういいよ! 二人とも「チュロス」って書いとくから!

(カリソメ君がヤケクソ気味に、手にした紙に書き込む仕草をする)

リリカ:ねえ、カリソメ。

カリソメ君:なんだよ?

リリカ:あなた、民主的って最初に言ったでしょう? そのアンケート用紙って、本当にクラスの総意を反映させるためにあるのかしら。それとも、最初から「チュロス」だの「アサイーボウル」だのって結論を導くための、見せかけの民主主義ごっこなのかしら?

カリソメ君:(動きを止め、アンケート用紙の文字をじっと見つめる)え? チュロスやアサイーボウルだったら、クラスみんなが美しくまとまるし、誰も傷つかないだろう?

リリカ:(ケニーのほうを見る)Everything was beautiful, and nothing hurt.だって、ケニー。

カリソメ君:なんだよ、もう!(怒って、図書室から出ていく)

ケニー:生きてるトラルファマドール星人を初めてみた。僕、学園祭、協力しようかな。

リリカ:絶対、偶然だから。

(リリカとケニーは、再び静かにそれぞれの本に視線を落とす)

(幕)

作・千早亭小倉


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[コント台本・掌編 約600本]

主な舞台は、椎名町三丁目から広がる箱庭「ここあん村」。箱庭コント作家・千早亭小倉の手による、どこか懐かしい日常劇やクスッと笑えるコメディ、沁みる掌編を絶賛公開中です。これからも「読むシットコム」の世界を追究していきます。
*ここあん村および本サイトに掲載している小説類の設定はフィクションです。 *The articles on this site were written by a human, peppered with AI. *無断転載禁止 Copyright © 2025 千早亭小倉|箱庭コントを紡ぐ 話紡庵レーベル All Rights Reserved.

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