箱庭コント「ハリボテの踊り子と乾いた草」

【登場人物】
氷上 冬子
:成城が丘に住む「生の肯定者」。人々の変わらなさや愚かさを壮大な喜劇として愛でる。氷上静の母。
矢尾 玲子:きさらぎタウンの主婦。自称「ステキさん」。あらゆる不都合や論理を「ステキ」で上書きする現実歪曲能力の持ち主。

【場面設定】
きさらぎタウンと成城が丘の境界にある「微笑書店」のカフェスペース。

(氷上冬子がテーブル席に座り、持参した水筒の蓋をゆっくりと開ける。ふわりと独特の香りが漂う。そこへ、独特なデザインのワンピース姿の矢尾玲子が通りかかる)

矢尾玲子:(大げさに手で鼻を覆い)あら、やだ。いつもはステキな本屋さんなのに、今日は干からびた草みたいな匂いがするわ。

氷上冬子:(水筒の中身を見つめたまま)干からびた草ね。間違いじゃないわ。当帰と桂皮を煎じたお茶だから。

玲子:(冬子に気づき)やだ、成城が丘の奥様って、そういう土の匂いがするものをありがたがるのね。ステキさんは、もっと華やかなローズヒップがいいわ。

冬子:ローズヒップ。いいんじゃない? でも、あなた、目元がピクついてるけれど、血の巡りが滞ってる証拠よ。バラの花びらを浮かべても、血管の詰まりは誤魔化せないのよ。

玲子:ピクついてる? 違うわよ。これはステキさんの瞳が、世界に向けてステキなウィンクを放つための準備運動よ。

冬子:(目を細めて、玲子を頭の先から足元まで観察する)見事なまでの「きさらぎ構文」ね。

玲子:でしょう? ステキさんは常に内側から輝いているの。

冬子:内側から輝く。ええ、本当に。老いや衰えというどうしようもない現実から目を背けて、ハリボテの舞台で踊り続ける赤い靴のプリマドンナ。こんな一級品の喜劇、なかなかお目にかかれないわ。

玲子:プリマドンナ! いやだ、ステキさん、やっぱり高貴なオーラが隠しきれてないのね!

冬子:映画の話よ。でも、気をつけなさい。気づいたら後戻りできないことだってあるんだから。無理に輝こうとして、内臓が悲鳴を上げてそう。あなた、お通じが悪くなくて?

玲子:(一瞬、笑顔が引きつる)お通じが悪い? ステキさんの辞書にそんな言葉はないわ。あるのは「オーガニック・デトックスの停滞期」よ!

冬子:デトックスね。出ないものを出ないと言えないなんて、不自由な辞書だこと。私はね、老いてみっともなく朽ちていく自分の身体が、愛おしくてたまらないの。

玲子:朽ちるだなんて、そんなネガティブな言葉! ステキさんは永遠にアップデートし続けるんだから!

冬子:アップデート。(水筒のお茶を一口飲む)その薄っぺらなアップデートの先に何があるのか、特等席で見せてもらうわね。

玲子:ええ、見ていなさいな! ステキさんの輝きで、あなたのその地味な水筒もキラキラのタンブラーに変えてみせるわ!

冬子:ふふふ……。ほんと、長生きはするべきね。こんな面白い生き物が、山を切り崩した新興住宅地から降りてくるんだから。

玲子:新興住宅地じゃないわ、「きさらぎタウン」よ! さあ、ステキさんはこれから、美容液みたいなケーキを買いに行くの! ごきげんよう!

冬子:いってらっしゃい。糖分の摂りすぎは、血液をドロドロにするから気をつけてね。

玲子:糖分じゃないわ、私の血管を流れるのは、ピンクのハピネスよ!

(玲子は完璧な笑顔を顔に貼り付けたまま、ヒールの音を高く響かせて去っていく)

冬子:(遠ざかる背中を見送りながら、小さく咳き込む)あんな特大の歩く喜劇が見られるなんて、私の寿命も少し延びそうね。

(幕)

作・千早亭小倉

[コント台本・小説500本]

主な舞台は、椎名町三丁目から広がる箱庭「ここあん村」。箱庭コント作家・千早亭小倉の手による、どこか懐かしい日常劇やクスッと笑えるコメディ、沁みる掌編を絶賛公開中です。これからも「読むシットコム」の世界を追究していきます。
*ここあん村および本サイトに掲載している小説類の設定はフィクションです。 *The articles on this site were written by a human, peppered with AI. *無断転載禁止 Copyright © 2025 千早亭小倉|箱庭コントを紡ぐ 話紡庵レーベル All Rights Reserved.

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