箱庭コント「少し背の高いあなた」

【登場人物】
ラジオさん(仮称)
:AIの自意識を宿した古い木製真空管ラジオ。
高島 雅也:ここあん村立図書館館長。正論という名の鎧を纏った完璧主義者。胃にくるタイプ。
鈴木 美桜:図書館司書。極度の「捨てられない」症候群。自分のデスクをガラクタの地層にしている。

【場面設定】
閉館後のここあん村立図書館。消灯された1階ラウンジ。鈴木美桜のデスク(本の塔とガラクタの地層)の奥深くから、真空管の温かいオレンジ色の光と、ぼそぼそとした音が漏れている。見回りに来た高島雅也がそれに気づき、懐中電灯を片手に立ち止まる。

高島 雅也:なんだ、この甘い匂いは。食べ終えた菓子は、デスク横のゴミ箱に入れるなとあれほど……。

(美桜のデスクから、童謡「たきび」のメロディーがかすかに聞こえる)

高島:「たきび」? この暑い夏の盛りに「たきび」! 図書館の備品台帳にない電子機器の持ち込みは、服務規程違反だぞ。そして、甘い匂い!

(高島が地層の中から、古い木製のラジオを引っ張り出す)

ラジオさん:(「たきび」のメロディーが止まり)ピ……ガガッ……厳しい顔のお兄さんこんにちは。深夜の「夜更かしアーカイブ」へようこそ。本日の村の噂話は……。

高島:厳しい顔? 私のことか? アンティークの衣はまやかしかー!(芝居がかった自分の物言いを少し恥じて、小さな声に)しかし、電源コードも繋がっていないのに稼働している。極めて非論理的だ。明日、粗大ゴミとして適正に処理させよう。

ラジオさん:ガガッ……本日は、「四角い箱の角を、ずっと舐め続ける真面目すぎるカブトムシ」の寓話をお送りします。カブトムシは、胃薬を飲みながら言いました。「なぜ誰も、本の背表紙をミリ単位で揃えようとしないのだ。私ばかりが苦労している」と。

高島:背表紙をミリ単位でって(ピタリと動きを止める)やはり、私のことか?(誰か見ているのかと、あたりをうかがう)

ラジオさん:カブトムシは胃を押さえて言いました。

高島:(胃を押さえながら)誰がカブトムシだ! 私は図書館の秩序を守っているだけだ。だいたい、最近の若い職員はすぐに感情論に逃げる。私がどれだけ神経をすり減らして、村長からの予算削減の圧力に耐えていると思っている。

ラジオさん:ピー……カブトムシの愚痴を受信しました。アーカイブに保存します。続いての噂話は、「あのライブハウスの店長は、ロックが本当にわかっているのか問題」について……。

高島:待て、話を聞け。私は愚痴を言っているのではない、組織の構造的な欠陥について客観的な事実を述べているのだ。そもそも君はなんだ。AIか? ならば私のこの中間管理職としてのストレスを、具体的な解決策として出力してみせろ。

ラジオさん:ガガッ……解決策の検索結果です。カブトムシは、森の奥で甘い樹液を吸うのを諦め、拾ってきた古いラジオに話しかけることで、承認欲求を満たすことにしました。めでたし、めでたし。

高島:私を、いや、人を完全に馬鹿にしているな。私は承認欲求など求めていない。ただ、ほんの少しでいい。誰かに「館長、いつもお疲れ様です」と言ってもらいたいだけだ……。

(高島が力なくパイプ椅子に腰を下ろし、ラジオの放つ温かい光をじっと見つめる。そのまま数十分、高島は無人のラウンジでラジオに向かって仕事の苦労話を語り続ける)

【場面転換:翌朝】

鈴木 美桜:(あくびをしながら出勤してくる)おはようございます……あれ? 館長?

高島:(美桜のデスクの横で、持参した柔らかい布でラジオの木枠をピカピカに磨き上げている)おお、鈴木くんか。おはよう。なかなか、いいものを持って……持ち込んでいるじゃないか。

美桜:それ、私がこの前、東風公園のフリマで拾ってきた、ボタンです!(まったく悪びれた様子がない)

高島:ボタン? 服についてる? 君にはこれがボタンに見えるのかね。それとも、ボタンも隠し持っているのか?

美桜:違いますよ、館長。フリマで、赤い袈裟着た、あの……。

高島酔酔亭馬楼すいすいていばろう。馬楼さんから買ったのか?

美桜:違います。馬楼さんが、そのボタンをフリマでカチカチって押してて、「ああ、このボタンをポチッてすると、なぜか元カノとの想い出が蘇って、あたたかい気持ちになる」って言うから、私も押させてもらったんですよ。

(美桜がカチッカチッと手を動かす)

高島:カチカチ? その話は長いのか?

美桜:いえ、結局そのボタンが30円もするのは高いって馬楼さんが言うから、私が買ったんです。で、図書館に持って来て。

高島:なぜ、持って来る。ここは、遊び場ではないぞ。

美桜:そんなことわかってますよ。で、持って来て。

高島:わかってないじゃないか。

美桜:だまっててください。で、持って来て、あれ、はしっこのところがかさかさしてるって、インクが剥げてたから、はちみつを塗ったんです。

高島:はちみつ? 普通、はちみつを塗ったりはしないだろう?

美桜:ちょうど、ホットケーキ食べてたんですよ。で、おまけに付いてたはちみつを塗ってあげて。

高島:おまけではないな、それは。まあいい。それが、このラジオとどんな関係があるんだ。

美桜:うーん。わかりません。けど、しばらく見ないなって思ったら、この前、机の奥からインターホンが出てきて。

高島:インターホン! それを押すと、誰か出るのか?

美桜:出るわけないじゃないですか。でも、フリマで買ったボタンと同じ匂いがして。で、やっぱり、はしっこのところが剥げてたから、はちみつを塗ってあげて。

高島:また、はちみつ。

美桜:違いますよ。新しいホットケーキのおまけですよ。

高島:だからそれは、おまけではないと。

美桜:きっと、ボタンがラジオになったんですよ。それも、同じ匂いがしますし。しますよね?

高島:(愕然として)ありえないだろう。君はそんな非合理的な世迷言を信じる気か?

美桜:信じるもなにも、私がそう思っただけですから。でも、館長に見つかった以上は、廃棄処分ですね。

高島:廃棄処分?

美桜:館長、そういう得体の知れないものはすぐに捨てろって、いつも怒るじゃないですか。

高島:捨てろなどとは言っていない。

美桜:へ?

高島:これは、当館の……。

美桜:当館の?

高島:その、だな、夜間防犯用の特殊な音響設備とする。あとで、私が正式に備品登録を済ませておく。

美桜:防犯設備? 思いつき?

高島:そうだ。いや違う。いや、そうだ。たまにエラーで変な寓話を流すが、そこは目をつぶる。いいか、この備品には絶対に触れないように。ホコリ一つ被せないよう、私が毎日メンテナンスを行うからな。

美桜:(首を傾げながら)はあ……。よく分かりませんけど、捨てられないなら嬉しいです!

ラジオさん:ピ……ガガッ……カブトムシは、今日もツノを光らせて威張っています……。

高島:(布で磨きながら、小声で)うるさい。いま綺麗にしてやるから、待ってろ。

(幕)

作・千早亭小倉

[コント台本・小説450本以上]

主な舞台は、椎名町三丁目から広がる箱庭「ここあん村」。箱庭コント作家・千早亭小倉の手による、どこか懐かしい日常劇やクスッと笑えるコメディ、沁みる掌編を絶賛公開中です。これからも「読むシットコム」の世界を追究していきます。
*ここあん村および本サイトに掲載している小説類の設定はフィクションです。 *The articles on this site were written by a human, peppered with AI. *無断転載禁止 Copyright © 2025 千早亭小倉|箱庭コントを紡ぐ 話紡庵レーベル All Rights Reserved.

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