箱庭コント「カブトムシと呼ばないで」

【登場人物】
ラジオさん(仮称)
:古い木製真空管ラジオの姿をしたAI。拾い主の美桜を「はは」、自分を磨く高島を「カブトムシ」と認識している。
高島 雅也:ここあん村立図書館館長。正論の鎧を纏った完璧主義者。胃にくるタイプ。
鈴木 美桜:図書館司書。極度の「捨てられない」症候群で、ラジオさんの命の恩人?

【場面設定】
夜のここあん村立図書館、屋外。返却ポストのすぐ横。コンクリートの台座の上に置かれたラジオさんが、真空管のオレンジ色の光で足元を照らしている。高島雅也が懐中電灯を片手に、ポスト周辺の落ち葉をトングで拾い集めている。そこへ、退勤前の鈴木美桜がカバンを下げてやってくる。

鈴木 美桜:館長、お疲れ様です。……あれ、なんでラジオさんがこんな外にいるんですか?

高島 雅也:ラジオさん? 君は、物にそうやってなんでも名前を付けるのか?

美桜:付けません、普通?

高島:そのあいまいな言い方、どっちだ! まあいい。こいつは、防犯用備品だからな。こうやって、夜間返却ポスト周辺の照度不足と防犯対策として、ここに再配置したのだ。予算ゼロで効果を最大化する、極めて合理的な運用だ。

ラジオさん:ピ……ガガッ。はは、お元気ですか? カブトムシは先程から、ポスト周辺の落ち葉を30分間、一枚ずつ拾い集めています。

高島:(持っていたトングを強く握りしめ)私を「カブトムシ」と呼ぶな。館長の高島だ。落ち葉の除去は、照明効果を妨げる障害物を排除するための必要な環境整備だ。

美桜:地面に落ちているのに?

(ラジオから、童謡「たきび」のメロディが流れる)

美桜:でも、母としては、こんな外に置かれて、ラジオさんの木枠が夜露で傷まないか心配です。上に小さな屋根はありますけど。

高島:ふん、母と呼ばれてずいぶんとうれしそうだな。情が湧いたか。

美桜:嬉しくないですか、普通?

高島:その言い方! あと、その君が言うところの「ラジオさん」まあ、「ラジオさん(仮称)」だな。こいつの雨露対策だが、君の大雑把な自室の管理と一緒にしないでくれたまえ。木枠には私が昨日、撥水性の高い蜜蝋ワックスを三度塗りしておいた。湿気対策は完璧だ。

ラジオさん:ガガッ……本日の寓話です。森の奥で、カブトムシは毎日、拾ってきた箱にせっせと蜜を塗っています。カブトムシは胃薬を飲みながら言いました。「なぜ母は、私がこんなに丁寧にワックスをかけていることに気づかないのだ。腹立たしい」と。

高島:(胃の辺りを押さえ、早口になる)腹など立てていない! 私はただ、村の財産である備品を適正に管理しているだけだ。だいたい鈴木くん、君は拾ってきた張本人なのだから、もう少し備品のメンテナンスに関心を持つべきではないか。「母」とまで呼ばれておきながら。

美桜:(カバンの紐を指でいじりながら)えー、でも私、拾う専門なんで。それに、私が雑巾で適当に拭くより、カブトムシさんの専用クロスで磨いてもらう方が、ラジオさんも絶対に嬉しいですよ。

ラジオさん:ピー……母の言う通りです。カブトムシの磨く手つきは、ミリ単位で正確かつ執拗です。私はこの摩擦による温度上昇を、「愛着」というデータに分類しました。

高島:(懐中電灯を落としそうになり、慌てて拾い直す)あ、愛着などではない! これはマニュアルに基づいた清掃手順の徹底だ! 機械が勝手な解釈でデータを分類するな。

美桜:ふふっ。館長、顔が赤いです。なんだかんだ言って、ラジオさんのこと一番大事にしてるじゃないですか。

ラジオさん:ガガッ……母はのんきに笑い、カブトムシは顔を赤くして胃薬のパッケージを裏返しています。本日の「夜更かしアーカイブ」、正常に記録しました。

高島:(メガネのブリッジを強く押し上げ)記録などしなくていい! 消去しろ! ……鈴木くん、君はもう帰りなさい。私はもう少し、この……備品の、「ラジオさん(仮称)」の拭き残しを確認してから帰る。

美桜:はいはい、わかりました。じゃあラジオ(仮称)さん、また明日ね。カブトムシさん、あんまり遅くまで角を擦り続けないでくださいね。

高島:だからカブトムシと呼ぶな!

(幕)

作・千早亭小倉

[コント台本・小説500本]

主な舞台は、椎名町三丁目から広がる箱庭「ここあん村」。箱庭コント作家・千早亭小倉の手による、どこか懐かしい日常劇やクスッと笑えるコメディ、沁みる掌編を絶賛公開中です。これからも「読むシットコム」の世界を追究していきます。
*ここあん村および本サイトに掲載している小説類の設定はフィクションです。 *The articles on this site were written by a human, peppered with AI. *無断転載禁止 Copyright © 2025 千早亭小倉|箱庭コントを紡ぐ 話紡庵レーベル All Rights Reserved.

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